雑記帳
僕用勉強ノート 「圏論」の巻

はじめに

まずはじめに、この勉強ノートシリーズを読むうえで必要な事前知識や登場する記号の意味、使用している用語の使い方と他の書籍等で使用される用語の使い方の相違になどついてまずざっと紹介する。
必要な事前知識
ここでは圏論を出発点と捉えているわけだが、出発点であることを謳っていることから明らかなように圏論を学ぶために必要となる事前知識は基本的にはない。
といいきってしまいたいところであるが、実際に「圏論をフル活用して数学を行う」ということを考えたい場合、それを行うための言語として「ホモトピー型理論 (HoTT: Homotopy Type Theory)」というものが必要になってくる。
そして残念なことにホモトピー型理論自体は、「公理的(∞,0)-圏論」という見方もできて、そういった「ホモトピー型」を「∞-亜群」と考えて全体の枠組みが「(∞,0)-圏」であるとという見方を採用すると、かなり見通しがよくなって理解しやすくなるというのが事実としてある。
何が言いたいのかというと、ホモトピー型理論の理解のために、「圏論的な考え方」というものが多少要求されてしまうということである。
幸いにも、関手や自然変換の概念を導入しない範囲内であれば、一階述語論理で公理化した圏を使って十分に圏論的な視点を養うことはできることと思う。
そういう理由もあって、ここでは次のような順を追って圏論の勉強ノートを作っていくことにする。
1. 一階述語論理の簡単な導入
2. 一階述語論理を使って圏という構造を公理的に定義する。(ホモトピー型理論が登場するまで、関手という概念は一切登場しない)
3. 一階の言語の中で、モニック射やエピック射,圏論的積,引き戻しといった基本的な圏論的な概念に慣れていただく。
4. カルテシアン閉圏を一階の言語で公理化し、冪対象よりも指数対象の方が単純な概念であることを見ていただく。
5. 一階の言語で初等トポスを公理化し、その中での様々な射の構成を行っていき、圏論的な考え方に慣れていただく。
6. (ETCS の勉強ノートも作るかもしれないので、オプションとしてそれでさらに抽象思考に慣れていただく。特に自然数対象を使った議論はかなり具体的で面白い部分なので)
7. この段階で初めてホモトピー型理論の簡単な導入を行う (ちゃんとやろうとすると非常に難しいので、重要な部分だけをできるだけイメージ重視でわかりやすく。正直僕自身もまだ全然理解できてない)
8. ホモトピー型理論を使った「圏」「関手」「自然変換」の定義 (圏のホム対象の型は0-型であるという制約がある一方、対象の型にそういった制約がないことの重要性を認識していただく)
9. 「Univalent 圏」
10. 「\(U\)-small集合の圏」「積圏」「反対圏」「関手圏」「前層圏 (そしてこの圏が常にUnivalentであること)」「コンマ圏」といった重要な構成が問題なくできることを紹介
11. 一階の言語でやっていたような積対象,余積対象といった構成が、普遍射という一つの考えにまとめられることを見ていただく。
12. 「ホモトピー型理論 + (1,1)-圏論」で様々な数学構造を捉えなおす。
(ざっとこんな感じかな。多分作っていくうちに変わっていくと思う。)
用語の使い方
■ 物質的集合論 (material set theory)
■ 構造的集合論 (structural set theory)
■ 純粋集合 (pure set)
■ 抽象集合 (abstract set)
■ 可変集合 (variable set) / 可変抽象集合 (variable abstract set)
■ 定集合 (constant set) / 定抽象集合 (constant abstract set)
(日本語訳は僕が勝手に割り当ててるだけの非公式なもの。)
■ 圏
HoTT本 では「前圏 (Pre-category)」とも呼ばれる。
ここでは、一階の述語論理から出発してホモトピー型理論に入るまで、慣れない呼び名である「前圏」という呼称をずっと使い続けるのは嬉しくないので、従来通り単に「圏」と呼ぶ。
■ 2-圏
単に「2-圏」といった場合、暗黙的に「strict 2-圏」を指すことが多いが、ここでは「弱2-圏」という意味で使う。
ちなみに他所では「弱2-圏」を「双圏 (bicategory)」と呼ぶこともある。
■ 圏論的積
単に積、あるいは直積とも呼ばれる。
■ 圏論的和
余積とも呼ばれる。
また集合や位相空間に対する圏論的和は「直和」とも呼ばれることがあるが、ここでは直和は圏論的和とは異なる意味で使用する。
圏論的和に対する記号は「\(A+B\)」で直和に対する記号は「\(A \oplus B\)」というように明確に使い分けていくが、それでも混同してしまわないように注意してほしい。
■ エピック射 (epic arrow)
エピ射 (epimorphism) とも呼ばれる。
ここで nLab での
・「エピック (epic)」は形容詞
・「エピ (epi)」は「エピックである射」という名詞
と呼ぶ流儀にも同様に従う。
(morphism は「射」と訳す一方、arrow を「射」と訳さずに「矢印」と訳す文献もあるが、ここでは射と訳している。)
■ モニック射 (monic arrow)
モノ射 (monomorphism) とも呼ばれる。
ここで nLab での
・「モニック (monic)」は形容詞
・「モノ (mono)」は「モニックである射」という名詞
と呼ぶ流儀にも同様に従う。
■ 同型射 (isic arrow)
同型射 (isomorphism) とも呼ばれる。
ここで nLab での
・「同型 (isic)」は形容詞
・「iso」は「同型 (isic) である射」という名詞
と呼ぶ流儀があるが、「isic」と「iso」に対応する日本語がわからないので従いたくてもうまく従えない。
■ セクション
■ レトラクション
■ インヴァース
■ カルテシアン閉圏 (cartesian closed category)
デカルト圏とも呼ばれる。
(ここでは僕の持っている唯一の日本語の圏論の教科書である「圏論の基礎」で用いられている訳し方に則って、カルテシアン閉圏と呼ぶ。)
■ モノイダル圏 (monoidal category)
Euclidean space をユークリディアン空間ではなくユークリッド空間と訳したり、Abelian category をアーベリアン圏ではなくアーベル圏と訳したりするのと同様、単に「モノイド圏」と呼ばれることも多い。
(ここでは僕の持っている唯一の日本語の圏論の教科書である「圏論の基礎」で用いられている訳し方に則って、モノイダル圏と呼ぶ。こちらの単なるカタカナ化の方を好んで使用しているしょうもない理由の一つに、「monoidal monoidoid」を「モノイドモノイドイド」ではなく「モノイダルモノイドイド」と語感良く書けるからというのもある。)
記号とその意味について
\(f:A\rightarrow B\)
1. 一階述語論理で公理的に圏を議論している中での意味
「ドメインが \(A\) でコドメインが \(B\) である」という命題の略記。
一階の言語で公理化する場合、single-sorted で公理化することが多く、その場合「\(A:A\rightarrow A\)」という記号も形式的に正しいものとして使用できる。
2. ホモトピー型理論の文脈内での意味
ホモトピー型 \((A\rightarrow B)\) の値 \(f:(A\rightarrow B)\)
圏論的な視点を交えると、「∞-亜群 \(A,B\) 間の (∞,0)-関手 \(f\)
((∞,0)-関手ってなんだ?と思うかもしれないが、とりあえず「写像を拡張したもの ((0,0)-関手 よりも一般的なもの)」程度の認識で良いと思う。具体例として、ホモトピー型理論で、(1,1)-関手を定義する場合、対象間の対応とホム集合間の対応によって与えられる事になるのだが、対象間の対応は「単なる写像」では不十分なのである。例えば、第一射影 \(\mathbf{Set}\times\mathbf{Set}\rightarrow\mathbf{Set}\) を関手として定義したい場合、それぞれの対象の型の間の対応を考えることになるわけだが、残念ながらこの場合それらの圏の対象全体の型は共に「0-型 (集合)」ではなく「1-型」となる。つまり、最低でも「(0,0)-関手」ではなく「(1,0)-関手」が必要になるので、既にこの時点で単なる写像としてそれら対象間の対応付けというものを行うことができないことがわかる。しかしながらそれら「(0,0)-関手」と「(1,0)-関手」は共に、(∞,0)-関手 の一種であるため、ホモトピー型理論の枠組みの中では問題なく、そういった第一射影も (1,1)-関手として定義することができることになる。)
3. ホモトピー型理論を使って行われる (1,1)-圏論の文脈内での意味
\(A,B\) がそれぞれ共に特定の圏 \(\mathscr{C}\) の対象として与えられている場合、\(f:A\rightarrow B\) は射 \(f:\hom_{\mathscr{C}}(A,B)\) という意味
(ZFC のような公理的集合論の文脈では、「\(f:A\rightarrow B\)」は一律に \(A,B\) 間の写像全体の集合の元 \(f\in {\rm Map}(A,B)\) と解釈されるがこの場合、位相空間の間のモルフィズムとなった場合、それは単なる集合間の写像ではなくなるため同様の表記を行うと不都合が生じてしまう。例えば、\(f:\langle P_X,\tau_X \rangle\rightarrow\langle P_Y,\tau_Y \rangle\) という記号は 集合の順序対の集合構成の関係で、濃度4の集合の元となってしまう。)
\(a:A\)
\(\lvert A \rvert\)
\(U\)
\((A=B)\)
\((X\rightarrow Y)\)
\(id_A\)
\(\varnothing\)
\(1\)
\(A+B\)
\(A \times B\)
\(A \>\Pi\> B\)
\(A \amalg B\)
\(B^A\)
\(A \oplus B\)
\({\rm Im} f\)
\({\rm Coim} f\)
\({\rm Ker} f\)
\({\rm Coker} f\)
\({\mathscr{C}}_0\)
\(\hom_{\mathscr{C}}(A,B)\)
\(\mathscr{C}^{op}\)
\((\mathscr{C}\downarrow \mathscr{D})\)
\((\mathscr{C}/X)\)
\((X/\mathscr{C})\)
\({\rm Sub}(X)\)
\(\mathbf{Set}_{U}\)
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