雑記帳
cos²(x) は表記の濫用なのか
【DISCLAIMER】
「小ネタ」タグが付けられていることからわかるように、あくまでギャグ (圏論ミームみたいなもの) であることを忘れないように。
「小ネタ」タグが付けられていることからわかるように、あくまでギャグ (圏論ミームみたいなもの) であることを忘れないように。
結局 cos²(x) とは?
前置き
三角関数を学んだときに、\(\cos^2(x)\) と \(\cos^{-1}(x)\) という2つの表記の間の一貫性のなさにモヤモヤしなかっただろうか?
<世間一般には、通常以下のようにして記号の意味を理解することが多い>
■ \(\cos^2(x)\)
「値 \(\cos(x)\) を2乗して得られる値 \((\cos(x))^2\)」という意味の記号
■ \(\cos^{-1}(x)\)
「\(\cos\) の逆関数 \(\cos^{-1}\) に値 \(x\) を入力した出力として得られる値 \(\cos^{-1}(x)\)」という意味の記号
■ \(\cos^2(x)\)
「値 \(\cos(x)\) を2乗して得られる値 \((\cos(x))^2\)」という意味の記号
■ \(\cos^{-1}(x)\)
「\(\cos\) の逆関数 \(\cos^{-1}\) に値 \(x\) を入力した出力として得られる値 \(\cos^{-1}(x)\)」という意味の記号
でもこれでは一貫性がないし、もし、
- 前者の表記で一貫性を持たせるパターン
■ \(\cos^2(x)\)
「値 \(\cos(x)\) を2乗して得られる値 \((\cos(x))^2\)」という意味の記号
■ \(\cos^{-1}(x)\)
「値 \(\cos(x)\) を(-1)乗して得られる値 \((\cos(x))^{-1}\)」という意味の記号
「値 \(\cos(x)\) を2乗して得られる値 \((\cos(x))^2\)」という意味の記号
■ \(\cos^{-1}(x)\)
「値 \(\cos(x)\) を(-1)乗して得られる値 \((\cos(x))^{-1}\)」という意味の記号
- 後者の表記で一貫性を持たせるパターン
■ \(\cos^2(x)\)
「関数 \(\cos \circ \cos\) に値 \(x\) を入力した出力として得られる値 \((\cos \circ \cos)(x)\)」という意味の記号
■ \(\cos^{-1}(x)\)
「\(\cos\) の逆関数 \(\cos^{-1}\) に値 \(x\) を入力した出力として得られる値 \(\cos^{-1}(x)\)」という意味の記号
「関数 \(\cos \circ \cos\) に値 \(x\) を入力した出力として得られる値 \((\cos \circ \cos)(x)\)」という意味の記号
■ \(\cos^{-1}(x)\)
「\(\cos\) の逆関数 \(\cos^{-1}\) に値 \(x\) を入力した出力として得られる値 \(\cos^{-1}(x)\)」という意味の記号
という感じに何れかの流儀に統一されていた方が余計な混乱を招かないし良いのになと思う人は少なくないと思う。
この問題を回避する一つの案として、紛らわしい \(\cos^{-1}(x)\) という表記を \(\arccos(x)\) という異なる表記で代替するということが行われる場合もあるが、でもそもそもとして、「\(\cos^2(x)\)」という表記に違和感を抱かないだろうか?
「\((\cos(x))^2\)」と「\(\cos^2(x)\)」を結びつけることに合理性を見出しづらいし、その結びつけは「表記の濫用」なのではないか?
「\((\cos(x))^2\)」と「\(\cos^2(x)\)」を結びつけることに合理性を見出しづらいし、その結びつけは「表記の濫用」なのではないか?
前置きが長くなったが、実は「\(\cos^2(x)\)」は「\((\cos(x))^2\)」にちゃんと結びつく。ということでその過程をここで紹介する。
cos²(x) が (cos(x))² になるまで...
まず圏論的には、集合 \(A\) の要素 \(a\) は大域要素 \(a:1\rightarrow A\) で与えられることを思い出そう。
続いて「2乗」を行う関数を定義する。
集合の圏の中で考えれば、実数 \(x\) というのは実数対象 \(\mathbb{R}\) の大域要素 \(x:1\rightarrow \mathbb{R}\) となる。
\(\Delta:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \times \mathbb{R}\) を \(\Delta = \langle \mathbb{R},\mathbb{R} \rangle\) で定義される対角射、\((\cdot):\mathbb{R}\times \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\) をその実数対象がコンテクストとして備える実数同士の積を与える射としたとき、2乗を求める射 \((-)^2:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\) は、
集合の圏の中で考えれば、実数 \(x\) というのは実数対象 \(\mathbb{R}\) の大域要素 \(x:1\rightarrow \mathbb{R}\) となる。
\(\Delta:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \times \mathbb{R}\) を \(\Delta = \langle \mathbb{R},\mathbb{R} \rangle\) で定義される対角射、\((\cdot):\mathbb{R}\times \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\) をその実数対象がコンテクストとして備える実数同士の積を与える射としたとき、2乗を求める射 \((-)^2:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\) は、
\[
(-)^2 = \Delta {\sf \, ⨟ \,} (\cdot)
\]
で定まる。
ここで、\(\mathbb{R}\) の一般化要素 \(z:L\rightarrow \mathbb{R}\) に対して、
\[
z^2 := z {\sf \, ⨟ \,} (-)^2
\]
という略記を導入する。この略記によって例えば \(x^2\) は通常の意味での「実数 \(x\) の2乗」という意味を持った表記となる。
一方で、この略記は任意の「\(\mathbb{R}\) の一般化要素」に対して適用される。つまり射 \(\cos:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R}\) にこの略記を適用することで「\(\cos {\sf \, ⨟ \,} (-)^2\)」という意味で解釈される「\(\cos^2\)」という記号を使用することができるようになる。
そしてこの略記のもと、「\(\cos^2(x)\)」を式変形すると「\((\cos(x))^2\)」にしっかりとたどりつく。
実際に数式を使って確認してみよう。
そしてこの略記のもと、「\(\cos^2(x)\)」を式変形すると「\((\cos(x))^2\)」にしっかりとたどりつく。
実際に数式を使って確認してみよう。
\[
\begin{align}
\cos^2(x) &= x {\sf \, ⨟ \,} \cos^2 \\
&= x {\sf \, ⨟ \,} (\cos {\sf \, ⨟ \,} (-)^2) \\
&= (x {\sf \, ⨟ \,} \cos) {\sf \, ⨟ \,} (-)^2 \\
&= (\cos(x)) {\sf \, ⨟ \,} (-)^2 \\
&= (\cos(x))^2
\end{align}
\]
まとめると、便利な表記の導入は式の見通しが良くなることに繋がることも多く、良い側面もある一方で、このように競合して「同じ記号に対して複数通りの解釈ができてしまう」というケースを生じさせ得るという負の側面もあるので注意が必要ということかな。
以上ギャグ記事でした。真に受けないように!
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