雑記帳

集合 X から生成される K-自由線形空間 K{X}

定義
まず
  • \(X\): 集合
  • \(U\): \(K\)-線形空間にその基底集合を対応させることで得られる関手 \(\mathbf{Vect}_K \rightarrow \mathbf{Set}\) (俗にいう忘却関手)
としたとき、集合 \(X\) から生成される 自由線形空間 (free vector space) とは、「関手 \(U\) に関する \(X\) 上の自由 \(\mathbf{Vect}_K\)-対象
(A free \(\mathbf{Vect}_K\)-object on \(X\) with repect to \(U\))」として定義できる。自由対象それ自体は、普遍性によって厳密に定義することができるため、この説明が実際に自由線形空間のフォーマルな定義となっている。
一言でいえば「線形空間の圏における自由対象」のことであるが、自由対象の定義それ自体に一つの関手が指定されている必要があり、どの関手に関する自由対象であるのかが伏せられているという点でこの説明には曖昧さが伴う。(暗黙の了解として、「ある数学的構造の対象とその間のモルフィズムのなす圏 C における自由対象」は、その数学的構造の対象にその基底集合を対応させる関手に関する自由対象という意味で)
※ 生成に用いる対象を「集合」から「全体がモノイダル圏を成すような任意の数学的構造の対象」へと一般化して考えることもできる。
自由線形空間の構成
// 雑メモ
定義は厳密に与えられているものの、\(K\)-線形空間の成す圏がそのような普遍的構成を実際にサポートしていること (そのような構成が実際にできること) は、自明ではない。
ということで、ここでは「具体的な線形空間の構成 → その対象が自由対象の普遍性を満足することを確認」という常套手段を踏んで、それを示していく。
\(E\) を集合とする。
まず以下のような集合 \(E\) から体 \(K\) (の基底集合) への写像の内、有限個の \(x\) を除いて \(f(x)=0\) となるような写像全体の集合を定義する。
\[ K\{E\}:=\{f\in K^E\:|\:f(x)=0 \text{ for all but finitely many } x\in E\} \]
基礎論を気にする人で、特に ZF(C) や ETCS を基礎に採用している人からすると、論理式
\[ P(f) :\Leftrightarrow f(x)=0 \text{ for all but finitely many } x\in E \]
が一階述語論理の言葉で書かれていない (あるいは上の論理式と同値な式をトポスの持つ論理式の組み立て機能の範囲内で組み立てられるのか) という点が引っかかるかもしれない。とはいえ言い回しを変えればどうにかなるはず
(例えば、f(x)≠0 を満たす点 x 全体からなる集合と [n] とを結ぶ同形射が存在する (つまりその集合が有限濃度を持つ) みたいな言明であれば、一階の言語で書けるはず。「(圏全体に亘る量化が必要な) モニック射であること」というのは内部論理で直接かけないと思うけど、「(終対象と該当の対象間に存在する射全体にわたる量化で済む) 単射であること」であれば書けるし。)
この集合に対していつも通り次のように \(f,g\in K\{E\}\)\(a\in K\)に対して
■ 加法
\(\langle f,g \rangle\) に「\(h(x)=f(x)+g(x)\) で定まる写像 \(h\)」を対応させる写像 \(+:K\{E\}\times K\{E\} \rightarrow K\{E\}\)
■ スカラー倍
\(\langle a,g\rangle\) に「\(k(x)=a\cdot f(x)\) で定まる写像 \(k\)」を対応させる写像 \(\cdot:K\times K\{E\} \rightarrow K\{E\}\)
を定義すると \(K\{E\}\) とそれらの写像たちから一つの K-線形空間の構造が得られる。
この時、\(x\in E\) に対して
\(\delta_x\in K\{E\}\)\(\delta_x(x)=1\),\(\delta_x(y)=0\)(\(x≠y\))で定まる写像とすると、この \(\delta_x\) は初めに説明した「\(x\) を各々すべて線形独立なベクトルと見なした時のベクトル」に相当する。
また任意の \(f\in K\{E\}\)に対し、
\[ f=\sum_{x\in \{z\in E | f(z)≠0\}} f(x)\cdot\delta_x \]
と表現できることからわかる通り \(K\{E\}\) という線形空間は、それら \(\delta_x\) の有限個の線形結合として表せるベクトルだけからなる空間ということになる。
// この対象が自由対象の普遍性を満たすことの確認
あああ
用途
記号の形式和
手持ちのカードを「クラブ、ダイヤ、ハート、スペードのカードをそれぞれ何枚ずつ持っているか」によって管理したいとき、「3♥+♠」で「ハートを3枚とスペードを1枚」という風に数式で記述できると便利である。
このような記号の形式的な和を表現したいときに自由線形空間が役立つ。
まず「使用する記号」が割り当てられるのにちょうどよい濃度を持った集合を好きなように用意する。
この例の場合は、次のように「クラブ」「ダイヤ」「ハート」「スペード」の4つ記号を要素に割り当てられるような集合があればよいので、ここでは一番プレーンに終対象1の4つのコピーの全ての余積 4:=((1+1)+1)+1 を用意し、その集合の要素に適当に記号を割り当てる。
\[ \begin{align} ♣ &:={\rm inj}_1 {\sf \, ⨟ \,} {\rm inj}_1 {\sf \, ⨟ \,} {\rm inj}_1 \\ ♦ &:={\rm inj}_2 {\sf \, ⨟ \,} {\rm inj}_1 {\sf \, ⨟ \,} {\rm inj}_1 \\ ♥ &:={\rm inj}_2 {\sf \, ⨟ \,} {\rm inj}_1 \\ ♠ &:={\rm inj}_2 \\ \end{align} \]
ここで、その余積集合 4 が生成する4次元実線形空間を考え、
\[ \begin{align} ♣ &:= \delta_{♣} \\ ♦ &:= \delta_{♦} \\ ♥ &:= \delta_{♥} \\ ♠ &:= \delta_{♠} \\ \end{align} \]
のようにして表記の濫用をしてあげることにより、次のように初めに示したような記号同士の形式的な和や実数を用いた重みづけを考えることができるようになる。
以下のような記号の操作も 4から生成される自由線形空間のベクトル操作として考えることができる。
\[ 5(2♣+3♦)+2(5♥+7♠)−3(♣+2♦+3♥+4♠) =10♣+15♦+10♥+14♠−3♣−6♦−9♥−12♠ =7♣+9♦+♥+2♠ \]

♣=(1,0,0,0)
♦=(0,1,0,0)
♥=(0,0,1,0)
♠=(0,0,0,1)